『AI vs.教科書が読めない子どもたち』新井紀子

本書は、AIの専門家が書いています。私自身はITもAIも詳しくないので、AIについて知りたくてこの本を手に取りました。そして分かったこと。AIに限界はあれど、多くの仕事はAIに取られてしまう将来。

この本は大きく分けて2つのテーマを扱っています。

1つは、AIの限界について。「第1章 MARCHに合格―AIはライバル」では、東ロボくんプロジェクト(AIで東大合格を目指すプロジェクト)で著者が辿り着いた結論として、AIは東大に合格することはできないが、MARCHには合格できることを書いています。「第2章 シンギュラリティはSF」では、シンギュラリティ(真の意味でのAIが自分自身を超えるAIを創り出せる時点)は来ない、少なくとも今の技術の延長上にはない、ということを書いています。AIはコンピュータ技術、つまり数学を使っている技術であるため、出来ることは「論理、確率、統計」に限られているのです。

もう1つは、教科書が読めない子どもたちについて。「第3章 教科書が読めないー全国読解力調査」では、大多数の子どもたちが教科書すらちゃんと読めていない現実を浮き彫りにしました。「第4章 最悪のシナリオ」では、今の教育で育てた能力は簡単にAIに代替できてしまうことを憂慮しています。例えば、次の問題です。


次の文を読みなさい。

 Alexは男性にも女性にも使われる名前で、女性の名Alexandraの愛称であるが、男性の名Alexanderの愛称でもある。

この文脈において、以下の文中の空欄に当てはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。

 Alexandraの愛称は(   )である。

 ①Alex ②Alexander ③男性 ④女性


この問題の正答率は、中学生で38%、高校生で65%だそうです。「愛称」の意味が解らなかったんでしょうね。ほかにも、公立中学校の社会科の先生の証言として、以下の用語の誤読が多いそうです。

首相、東西、設立、大手、残業、物理、文部、用いる、居住地、現役

この他にも、「学」から始まる単語を見ると「学級」でも「学年」でもすべて「がっこう」と読み、なぜ?と聞いたら「そのほうがよく当たるから」と答えた生徒がいるとか。この話に近いことは、昔私が塾講師をやってた時にもありましたね。数学か何かで、「どうしてこの問題でその解き方なの?」と聞くと、「これがよく当たるから」と答えるんです。内容がわかってないから、とりあえず当たりそうなのを当てはめるんです。この癖がついてしまうと、何も考えずに知っていることから順番に当てはめて、たまたま当たるとラッキー、みたいな感じになります。考えない癖がついてしまうんです。この手の生徒の指導には結構苦戦した記憶があります。

以上のように本書のテーマは2つ、①AIの限界と②教科書が読めない子どもたちの問題なのですが、両方に通底する視点は「意味が解ることが重要」ということです。AIは意味を理解せず、全てを論理、確率、統計に転換して処理します。教科書を読めない子どもというのは、意味を理解していないということで、知っている中から当たりそうなことで問題を解きます。つまり、AIと同じことをしているわけで、そうであるなら、膨大なデータを記憶できるAIに軍配が上がってしまい、勝てるわけがありません。

この話はいろいろな側面を持っている気がします。最近読んだ別の本で『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(山口周)という本があるのですが、この中で指摘されている現在の経営における問題点は、論理と理性が導く「正解」がコモディティ化しておりレッドオーシャンにしか辿り着かないということです。それを解決するために「美意識」を鍛える、という主張です。詳細は別の機会に書きますが、この問題点は論理・確率・統計を駆使するAIとも関連することになるのではないでしょうか。

最後に著者の危機感を引用します。

「東ロボ君のチャレンジが明らかにしたことは、AIはすでにMARCHの合格県内の実力を身につけたということです。その序列は大学進学希望者の上位20%です。大学に進学しない人も含めると、序列はもっと上がるはずです。つまり、AIにより仕事を失った人のうち、人間にしかできないタイプの知的労働に従事する能力を備えている人は、全体の20%に満たない可能性があるということです。」

この危機感が日本全体に共有されて、よりよい教育、より良い人材の創出につながるといいなと思います。

(ライトアップされた夜桜。あっという間に咲いて、はらはらと散る桜の美しさ、諸行無常とか盛者必衰とか、花の色は移りにけりなとかは、AIには理解できないに違いない)

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